バスキュラー
アクセス手術について
About Vascular Access Surgery

血液をきれい(浄化)にする透析装置と体の血管をつなぐ手段=バスキュラーアクセス(vascular=血管 access=接続)の方法にはいくつかの方法があります。
自己血管シャント、人工血管シャント、動脈表在化、一時的透析カテーテル、長期留置型透析カテーテルなどです。また作成したシャントにトラブルが派生した場合、血管内治療(VAIVT)などで、シャントを継続的に使用できるようにします。

基本的にアクセス手術は局所麻酔で可能でリスクの少ない手術です。典型的な自己血管シャントは1時間前後、人工血管シャントは2時間前後で作成できます。日帰り手術で可能ですが、人工血管の場合は腫れや痛みが出るので、当院では短期の入院をお勧めしています。

自己血管シャント(AVF)

バスキュラーアクセスの代表で最も多用されます。
シャント(shunt 英語)は日本語訳で”分岐”とか“短絡”と訳されます。心臓から送り出された血液が流れる動脈と、心臓へ血液の帰る静脈をつなぐ(短絡する)ことによって静脈に流れる血液量を増やす手術のことをシャント手術と呼んでいます。
通常、肘より先へゆく動脈(上腕動脈)の血流量は100ml/分以下ですが、安定シャントができると500〜1000ml/分の血液が流れるようになります。増えた血流量はシャント静脈に流れ、静脈は太くなり針が刺しやすくなります。安定した透析を行うには1分間に150〜200mlの血液を透析装置へ導く必要がありシャントにはその倍ほどの血流量が求められます。
一般的なシャントは前腕の親指側の動脈(橈骨動脈)と静脈(橈側皮静脈)をつないで作成します。シャントを作る位置は可能であればできるだけ手先のほうで作ったほうが、長い距離の静脈を針刺しに使えます。
自己血管シャント(AVF)

またシャントに問題が起きた場合も上の方で繋ぎ直すことで、またシャントが使えるようになります。しかし静脈は動脈に比べ人により大きく走行が異なるうえに、点滴や血管で静脈が詰まっていることも多く、術前にエコー検査で見て適切な部位を決定します。
また、初めてシャントを作るときは2週間ほど静脈の発育を待たないと使用できないので、透析を開始予定より早めに作成します。

自己血管シャント(AVF)2
自己血管シャント(AVF)3

人工血管シャント(AVG)

シャントの基本は自己血管ですが、腕の静脈が未発達であったり、点滴や採血で血管がつぶれていた場合、また自己血管シャントが壊れて作れなくなった場合は人工血管を用いてシャントを作ります。適当な長さを持った人工血管を皮膚の下に埋め込んで、動脈と静脈の間をつなぎます。
埋め込んだ人工血管は安定して針を刺せるので使いやすく、人工血管の種類によっては作った翌日からは針を刺して使うことが可能です。
しかし大きな問題点として、細菌が付いて感染してしまうと、細菌の住み家となって治らないだけでなく、体中に菌をばらまいて敗血症という症状を起こす問題があります。日常の清潔な管理と感染した場合の早期治療が必要です。

人工血管シャント(AVG)
人工血管シャント(AVG)

透析シャント血管内治療(VAIVT:Vascular Access Intervention Therapy)

細くなって問題を起こしているシャントを外科的に切開する手術ではなく、針を刺してカテーテル(細い管)を挿入して狭いところをカテーテルについた風船で内側から膨らませる経皮的血管形成術(PTA Percutaneous Transluminal Angioplasity) を行ったり、血栓を吸い取って除去をしたりする治療です。作成したシャントの治療としてもっとも行われる手技です。
通常の透析の針よりも少し太い針を刺して、風船のついたカテーテルを挿入して、狭いところを内側から風船で膨らませて拡げる治療 “経皮的シャント血管形成術(PTA)” が主です。針を刺した傷のみですので、治療後そのまま透析を行うことができます。当院ではシャントに異常が認められた場合、速やかにVAIVTを行える体制をとっています。通常VAIVTは血管造影下、或いはエコー下に行います。造影剤アレルギーの場合の造影は炭酸ガス造影も行います。
風船治療

上腕動脈表在化

シャントの血流は体の組織に栄養・酸素を運ばないで心臓に帰ってゆくので、心臓からすればその分無駄打ちが増えます。そのため、心臓が悪い人ではシャントが悪影響を及ぼすため、上腕の腱膜の下にある太い動脈を皮膚の下に持ち上げて(表在化)して針を刺す手技です。しかし、通常のシャントに比べて止血が困難で、また血液を返すためには他に穿刺する静脈が必要であり、長期的に使用するのは難しいアクセスになります。

一時的透析カテーテル

血管に針を刺しての透析ができない状態では、脱血と送血用の2重腔の管を太い静脈(中心静脈)までに入れて透析を行います。最も使用されるのは首の付け根の内頚静脈です。現在ではエコーで血管を確認しながら挿入しますので、合併症も少ない手技です。基本的にはシャントが使えない状態での一時的なアクセスですが、中心静脈から血液を抜いて同じところに戻しますので、体の血流に影響が少なく心不全などの体の状態の悪い場合にも適しています。ただ、管の血栓閉塞と、皮膚を貫いて外に出ていることによる感染が問題となります。

長期留置型(カフ付)透析カテーテル

一時的カテーテルとアクセスとしての仕組みは変わりませんが、血管から皮膚の出口までに距離をもたし皮下トンネルを通すことで、カテーテルの出口を首ではなく、邪魔にならない前胸部にできます。さらに、出口の手前にカフ(繊維状の塊)を巻き付けてあることで、カフが皮下組織と癒着して細菌の侵入を食い止めることで感染のリスクが減り、より長期的使用できるようにしたものです。カテーテル出口にフィルムを張ればシャワーも可能で、管理がよければ外来管理で1年を超える使用も可能です。
最近ではシャントの作成困難例での選択が増えてきています。

長期留置型(カフ付)透析カテーテル
長期留置型(カフ付)透析カテーテル