合併症・
シャントトラブルについて
Complicated Shunt Problems

シャント不全

自己血管・人工血管にかかわらず透析を行うためには、毎回2本の針を刺します。そのため周囲の血腫、炎症、血流の乱れによる刺激などで、内膜が厚くなったり、壁が硬く細くなったりします。また人工血管のつなぎ目が細くなることも多々あります。そのため血液がうまく抜けなくなったり、圧が上がったり、止血困難になったりします。そのような状態をシャント不全といい、放置すると透析困難となり最終的には閉塞となってしまいます。シャント音、静脈圧に注意を払いながら定期的な診察を行い、問題が大きくならないうちに血管内治療(VAIVT)などで治療していくことで、作ったシャントをできるだけ長く使っていけるようにしていきます。

自己血管シャント不全
人工血管シャント不全

静脈高血圧

シャントにより動脈も太くなり手腕に来る血流は劇的に増加します。しかし帰り道の静脈のどこかに狭いところができると、多くなった血流が帰れなくなり静脈の圧力が増加します。すると血管から水分が漏れ出て浮腫(むくみ)が出現します。前腕で起きるとソアサム(Sore Thum)という手のうっ血、腫れ、痛みが出現し、肩や胸腔内の中枢静脈で狭くなると上肢全体のむくみが出現します。
狭くなった部分をVAIVTで広くしたり、流れ方を変更したりします。中枢静脈の場合は風船で膨らますだけでなくステント(金属の網状の筒)を挿入する場合もあります。

静脈高血圧による浮腫
側副路消失

スチール症候群

動脈の血液は本来指先まで届くのですが、シャントで途中から静脈に帰って行ってしまうため、手先・指への血流低下が起こり、冷感、ひどい時には痛みや潰瘍が出現します。糖尿病・動脈硬化で指先の動脈の血流がもともと阻害されている場合、またシャントのつなぎ目が大きすぎて血液が逃げすぎる場合もあります。軽度の場合は保温などで対処しますが、症状が強い時は流れ方を変える手術やシャントの血流を制限する手術が必要です。ひどいスチールのため指が壊死を起こすような場合は、他のアクセス方法に変更する必要があることもあります。

指動脈が原因のスチール
狭窄によるスチール

過剰血流

シャントはよく流れなければ使えないのですが、2000ml以上など大量に流れるシャントは問題を起こします。先に示した静脈高血圧や、スチールの原因になることもあります。また心臓からすれば、シャントの血流は体の栄養。酸素供給に使われないのに大量に血液を送り出さなくてはならないので負担がかかります。
そのため過剰血流に対しては血流抑制手術としてバンディング(血管を外から締めて細くする)、皺壁形成(吻合孔を狭くする)、細い人工血管の移植あるいは内挿といった手技を行います。

シャント瘤

シャントの血管が異常に膨らんで瘤となる状態です。静脈壁が保たれたまま膨らむ真正瘤と血管壁が壊れて膨らむ仮性瘤があります。
真正瘤には血流過多などにより静脈全体の拡張をおこし瘤化するものや、細い部分から噴き出すジェットの乱流で拡張するものがあります。仮性瘤には頻回の穿刺で壁が壊れて菲薄化するものや、人工血管の破綻などがあります。 真正瘤の場合は破裂しにくいですが 瘤の中で血栓ができて閉塞することがあります。仮性瘤は出血、破裂の原因になりやすく外科的修復が必要な場合があります。
特殊な瘤としてPTFEという人工血管から血漿が漏れ出す漿液腫もあります。

シャント瘤切迫破裂
シャント瘤の血流切断
人工血管仮性瘤
人工血管液腫

人工血管感染

様々な種類の人工血管が開発されており、静脈が荒れて使えない方のシャントの作成には欠かせないものですが、感染に弱いのが欠点です。自己血管のシャントでは細菌が付いて膿むことはほとんどなく、膿んでも比較的容易になおります。しかし人工血管に細菌が付いた場合、抗生剤を投与し鎮静化しても人工血管内に細菌が残り、まず完治しません。人工血管が細菌の巣となって、血流にのって細菌が体に広がり敗血症といった重篤な状態となることもあります。
明らかな人工血管感染に対しては躊躇せず感染した人工血管の摘出が行われます。感染部分だけの摘出を行い、う回路を作成する場合と全部摘出して作り直す場合があります。
人工血管感染を起こさないように穿刺手技を清潔で行うことはもちろんですが、テープかぶれなどの皮膚炎を起こさない、皮膚を清潔で健全な状態に保つなどの日々の注意が必要です。

人工血管感染